「保佐人ってどんなことをする人なの?」
親が認知症になり、正しい判断をできなくなってきた。保佐人をつける必要があると聞いたけれど、難しい制度でよく分からないですよね。
そこでこの記事では、
・保佐人が必要になる4つのケース
・保佐人が行う4つのこと
について図を用いながら分かりやすく解説しています。
さらに、「保佐人を選ぶための手続き」についても紹介していますので、保佐人について分からないことがなくなるはずです!
保佐人について理解し、親のサポートを安心して行っていくために、この記事がお役に立てば幸いです。
保佐人とは
保佐人とは、精神疾患や認知症などによって自分自身では物事の判断が難し苦なっている人のサポートをする人のことです。
保佐人と似た制度として、「後見人」や「補助人」がありますが、精神疾患の状態により「後見人」「保佐人」「補助人」の3段階に分かれており、保佐人は中度の認知症や知的障害の人のサポートを行います。
判断能力 | |
後見人 | 本人に判断する能力がない |
保佐人 | 日常生活には問題ないが、判断能力は著しく欠如 |
補助人 | 日常生活には問題ないが、普通の人よりも判断能力は不足 |
詳しいサポート内容については後ほど解説しますが、保佐人の役割は未成年者の親を想像すればわかりやすいです。未成年者が家を借りたり車を購入したりする場合に親の同意が必要であるのと同様に、サポートを受ける精神疾患者(被保佐人)も契約時に保佐人の同意が必要になるといった具合です。
保佐人は配偶者や子ども、親、兄弟など親族から選ばれるケースが多いですが、その他にも弁護士や司法書士、行政書士、社会福祉士が選ばれるケースもあります。弁護士のような専門家が選ばれるのは誰が保佐人を務めるかなど親族間での意見が合わないような場合です。
選ばれた保佐人は被保佐人の財産や権利を守るために必要なサポートを行い、定期的に家庭裁判所に活動報告を行います。
保佐人が必要になる4つのケース
判断能力が低い人のために保佐人がいるということを解説しましたが、具体的にはどのような場面で保佐人が必要になるのでしょうか。保佐人が必要になる4つのケースについて解説していきます。
ケース1:本人の判断では不動産の管理が難しい
1つ目のケースは、不動産の管理が難しい場合です。例えば父親が不動産を所有しているが、認知症によって父親の判断では不動産を賃貸に出したり売ったりができないといったケースが当てはまります。不動産の管理や運用には適切な判断能力が必要ですが、認知症によって適切な運用ができなければ負債となり、不動産の所有がマイナスになってしまいます。
このようなケースで父親が被保佐人として認められ、親族などが保佐人として不動産の管理をすることができればこの父親にとってもプラスです。判断能力の低下により不動産の管理や運用、売却の判断が難しいようなケースでは保佐人が必要と言えます。
ケース2:知らないうちにお金を使い込んでしまう
2つ目のケースは、知らないうちにお金を使い込んでしまう場合です。例えば、精神疾患を抱え判断能力が乏しい母親が知らないうちに通信販売や訪問販売で多額の買い物をしているようなケースがこれに当たります。また、他人にお金を貸してしまったり借金の保証人になってしまうというような場合もこのケースに該当します。このように、自分のお金の管理が難しい場合には保佐人が必要なケースです。
ケース3:家族がお金を使い込んでしまう
3つ目のケースは、家族がお金を使い込んでしまうような場合です。例えば、父親が認知症になったのをいいことに家族のなかの誰かが父親の資産を使い込み、父親の生活費がなくなっていくといったケースがこれに当たります。父親の財産、生活を守るために保佐人が必要です。
ケース4:判断能力が低いことを利用して不当な契約を結ばされる
4つ目のケースは、不当な契約を結ばされる場合です。例えば、判断能力が乏しい母親に対して訪問販売が繰り返され、必要のないリフォームの契約を結ばれるなど、不当な契約を結ばされる恐れがあるケースがこれに当たります。クーリングオフができればいいですが、期間が過ぎれば契約のもとお金を返してもらうことは難しいです。
日常生活は問題なくても、精神疾患者や認知症の人に大きな契約の判断は難しいです。こういった不当な契約を結ばされてしまうようなケースがありそうな場合には保佐人が必要と言えます。
保佐人が行える4つのこと
保佐人がどういった存在か、また保佐人がどのような場合に必要になるのか理解できたでしょうか。次に、保佐人に与えられる以下の4つの権利について解説します。
- 同意権
- 取消権
- 追認権
- 代理権
不動産の購入や金融機関からの融資に対して同意することができる
被保佐人は財産上の重要な行為に対して保佐人の同意を得る必要があり、これを保佐人の「同意権」と言います。保佐人の同意が必要となる行為は以下の通りです。
- 預貯金の払い戻し
- お金を貸す行為
- 金融機関などからの融資
- 保証人になること
- 不動産の購入・売却・賃貸借契約
- 通信販売・訪問販売などによる契約
- クレジットカードの契約
- 元本が保証されない取り引き
- 原告としての訴訟行為
- 相続の承認・放棄・遺産分割
- 新築・改築・増築・大修繕
契約することが被保佐人の利益になるかどうかを保佐人がしっかりと見極めたうえで契約の同意を行います。しかし、何をするにも保佐人が同意しなければならないというわけではありません。例えば、結婚や遺言書の作成などは保佐人が同意する必要はなく、被保佐人の意思で行うことができます。もちろん日用品の購入や日常行為に関する行為についても保佐人の同意は不要です。
被保佐人が勝手に行なった契約を後から認めることができる
保佐人の同意なしに被保佐人は不動産の購入等ができないことは前述のとおりですが、判断能力が欠けていれば勝手に契約してしまうこともあります。この時に保佐人は、その契約が被保佐人の利益を損なわないと判断した場合に後から認めることが可能です。これを「追認権」と言います。
例えば、被保佐人が保佐人の同意を得ないままリフォームの契約をしたとします。この時、保佐人はそのリフォームが必要だと判断すれば追認し、契約を進めることが可能です。また、被保佐人がした借金の一部を被保佐人が代わりに返済した場合にも追認したとみなされるので注意しましょう。
保佐人の同意を得ないまま行なった契約を取り消すことができる
不動産の購入や金融機関などから融資を受けるには保佐人の同意が必要であると解説しましたが、被保佐人が保佐人の同意を得ないまま契約してしまうこともあります。もしも同意を得ないまま契約した場合には、保佐人はその契約を取り消すことが可能です。これを「取消権」と言います。
保佐人が契約の取り消しを行なった場合、その契約は初めから無かったことになります。ただし、取り消しできない場合もあります。取り消しができないのは以下のようなケースです。
- 被保佐人が「自分は被保佐人ではない」と嘘をついて契約した場合
- 保佐人が追認した場合
- 保佐人がその行為を知ってから5年が経った場合、もしくはその行為から20年が経った場合
不動産や保険の契約を代わりに行うことができる
保佐人は被保佐人の代わりに契約を結ぶことができます。これを代理権と言いますが、あらゆる契約を代わりに行うことができるわけではありません。代理で行うことが可能な契約は、同意が必要となる行為と同様の以下のような行為です。
- 預貯金の払い戻し
- お金を貸す行為
- 金融機関などからの融資
- 保証人になること
- 不動産の購入・売却・賃貸借契約
- 通信販売・訪問販売などによる契約
- クレジットカードの契約
- 元本が保証されない取り引き
- 介護サービスなどの契約
- 介護保険の認定申請
- 原告としての訴訟行為
- 相続の承認・放棄・遺産分割
- 新築・改築・増築・大修繕
ただし、代理権は全ての保佐人に与えられるものではありません。被保佐人の同意のもと家庭裁判所への申請が必要です。代理権の申請なしに被保佐人の代わりに不動産や保険の契約を代わりに行うことができるわけではないので注意しましょう。
保佐人を選任するための手続き
最後に、保佐人を選任するための手続きについて解説していきます。まず保佐人の選任手続きは誰でも行えるわけではありません。この手続きができる人は以下の通りです。
- 保佐を受ける本人
- 配偶者
- 4親等内の親族
- 後見人
- 後見監督人
- 補助人
- 補助監督人
- 検察官
上記以外の人は、例えどれほど親しい間柄であっても保佐選任の手続きを行うことはできないので注意が必要です。そして、保佐人を選任するためには大きく分けて3つのステップを踏む必要があります。
- step1:書類の準備
- step2:保佐人選任の申し立て
- step3:保佐人の選任
それぞれに何が必要なのか、どのような手順を踏めばいいのか詳しく解説していきます。
step1:書類の準備
まずは書類の準備をします。書類は大きく分けて以下の7つが必要です。
- 保佐開始の申立書類
- 保佐人候補者の住民票
- 被保佐人となる者の診断書
- 被保佐人となる者が成年被後見人などに登記されてないことを証明するもの
- 被保佐人となる者の財産に関する資料
- 被保佐人となる者の収支に関する資料
- 代理権を求める資料
まず保佐開始の申立書類は以下の7点が必要です。
- 申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 収支状況報告書
- 後見人等候補者事情説明書
- 親族の同意書
上記の書類は裁判所のHP(リンク:https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_02/index.html)からダウンロードが可能です。記入例もあるのであまり書き方で悩むことはないです。
戸籍・住民票は被保佐人となる本人の戸籍謄本(全事項証明書)、被保佐人となる本人の住民票または戸籍附票、保佐人候補者の住民票または戸籍附票が必要です。これらの書類は市役所で取得することができます。
次に被保佐人となる者の医師の診断書および本人情報シートの写し、健康状態に関する資料が必要です。本人情報シートは聞き慣れないものですが、裁判所のHPの「成年後見人制度における診断書作成の手引・本人情報シート作成の手引」に作成方法が記載されています。また、本人の健康状態に関する資料は、介護保険認定書や精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳などの写しです。
被保佐人となる者が成年被後見人などに登記されてないことを証明するものは法務省の地方法務局で発行可能です。取得方法の詳細については法務省のHP(リンク:https://www.moj.go.jp/ONLINE/GUARDIAN/7-1.html)から確認してください。
被保佐人になる者の財産に関する資料は預貯金通帳の写しや残高証明書、不動産関係書類、負債がわかる書類が必要です。また、被保佐人になる者の収支に関する資料は給与明細や確定申告書のような収入のわかる資料と納税証明書や国民健康保険料の決定通知書、入院費などの支出がわかる資料を用意しましょう。
さらに、代理権を求める場合には被保佐人になる者の同意を得たうえで申請します。代理権の申請は保佐人選任の手続き開始時でも申請できますし、後からでも申請可能です。
step2:保佐人選任の申し立て
書類の準備ができたら家庭裁判所で保佐人選任の申立てを行います。この時、申立てを行う家庭裁判所は、被保佐人になる者の住民票がある管轄の家庭裁判所でなければなりません。手続きを行う人の管轄の家庭裁判所ではないので注意が必要です。
申立てが受理されると詳しい事情を説明するため、手続きを行なった人と保佐人候補者、被保佐人になる人は家庭裁判所で面接が行われます。面接の所要時間は約1〜2時間程度です。
ちなみに、保佐選任の申立てを行うには収入印紙や切手が必要となるので費用がかかります。
申立費用(貼用収入印紙) | 800円 |
郵便切手(予納郵便切手) | 3,200円〜3,500円程度 |
登記費用(予納収入印紙) | 2,600円 |
郵便切手については各家庭裁判所によって異なりますので確認してください。
step3:保佐人の選任
提出された書類や各人との面接をもとに家庭裁判所で保佐が必要かの判断を行います。家庭裁判所から書類の不備を指摘されれば再提出しなければなりません。そして、家庭裁判所は提出された診断書と親族からの情報や面接では判断能力の有無を判定できない場合には、医師による鑑定を行います。
家庭裁判所によって被保佐人になる者には判断能力が低いと判定されれば、保佐人が選ばれます。申立てから保佐人が選任されるまでの期間は1ヶ月から3ヶ月程度かかります。時間を要する作業となるので、余裕をもって手続きを始めましょう。
保佐人についてのまとめ
この記事では保佐人についてわかりやすく解説してきました。身内に精神疾患や痴呆症などで判断能力が低い人がいれば、騙されたりしないだろうかと不安になることもあります。しかし、その人が被保佐人となり、保佐人のサポートを受けることができればそのような心配が減るのではないでしょうか。
保佐人を選任するには多くの書類を用意しなければならず、また時間もかかるのも事実です。それでも、保佐人が選任されることで身内の利益を守ることが必要であり、また、それによってお互いが安心して生活することができます。保佐人の制度についてしっかりと理解し、必要であれば手続きをしてみましょう。
監修者情報
徳永 和喜(公認会計士)
高校卒業して就職後、一念発起して公認会計士試験合格。
2018年から株式会社better創業メンバー取締役としてbetter相続Webアプリケーション開発に従事。公認会計士/税理士とエンジニアを兼務しながら、相続税申告の案件にも携わる。
2022年10月、経営統合により辻・本郷ITコンサルティング株式会社の執行役員就任。better相続事業部長として、自分で相続税申告や相続登記を行う方へより良いサービスの提供を目指している。