国税局OBに訊く!税務調査の裏側と、自分で申告をするときのポイントとは?

人間が一生で相続を経験するのはわずか数回。しかもほとんどの場合、税理士がすべてを処理するため、相続税申告の知識を深く身につける機会はほぼゼロです。

もしあなたが、亡くなった親の相続税申告を一人でおこなうことになったら……。正しい相続税申告に必要なポイントを即答できるでしょうか?

今回はその答えをズバリ教えていただけるゲストにご登場いただきます。貴重なお話をうかがったのは、税務職員として30数年にわたり相続税調査を担当してきた福士さんです。

※インタビュー内容は2023年1月7日まで提供していた「基本プラン(旧)」のものとなります。2023年3月現在とサービス内容が一部異なりますのでご了承ください※

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1. 国税局職員としてのプロフィール

―― はじめに福士さんのご経歴を教えてください

高校卒業後、1981年に公務員試験を受験し、税務職に採用されました。最初の赴任先は仙台国税局でしたが、新人職員はみな税務大学校で研修を受けるんです。私も4月から1年間、税法・民法・刑法といった法律や、税務に欠かせない簿記や会計の研修を受けました。

研修を終えた後は東京国税局に出向し、資産課税部門で相続税や贈与税、譲渡所得税など調査事務を担当しました。平成28年に退職し、税理士登録をして現在に至ります。

具体的な業務としては、実地調査として納税者さんのご自宅の訪問調査、銀行や証券会社の調査などもたくさんこなしましたね。

国税局OB 福士税理士インタビューカット①

――キャリアとしては資産課税がメインだったのですか

個人課税部門に出向し、所得税の調査や確定申告のサポート業務をおこなうこともありましたが、メインは資産課税でしたね。相続税と贈与税に関する調査のほか、不動産売買に伴う譲渡所得税の調査なども担当しました。

2. 国税で経験した相続税調査の実態について

――福士さんが経験してきた相続税調査の実態についてお聞かせください

税務署での相続税調査の部署は一般部門と特別国税調査官部門に分かれます。後者は通称「特官」と呼ばれていて、遺産総額が3億円を超えるような比較的大きい案件を扱います。

著名な芸能人や大企業の創業者など、社会的に話題となるような方の相続もこちらで扱いますね。私も特官の仕事を数多く担当しましたが、一般部門とはまるで違うかなり変わった経験ができました。

日本人なら誰でも名前を知っている俳優さんの相続税調査を担当したことがあります。おもしろいなと感じたのは、その方の出演映画に関する著作権が財産として計上されていたことですね。

「Aという映画、○分○秒から△分△秒、肖像権○○円」というように、出演シーンを財産とみなして相続税申告をしていました。一般の方だとこういったケースはまず見かけません。

――相続財産といっても色々な形があるのですね。一般の方の相続財産にはどのような特徴があるのでしょうか

最も多いのは不動産ですね。不動産以外の財産は、被相続人の生前の収入によってさまざまです。家賃収入目的でアパートを経営する方も多いですし、効率よくお金を増やすために株に投資する方も増えています。

またご本人が趣味で集めた物が、相続財産の中で大きな割合を占める場合もあります。書画骨董や刀剣などですね。

3. 相続税は、「かなり特殊」な法制度

ーー相続税という法制度について解説をしていただけますか

相続税は所得税や法人税と比べると、かなり特殊な法制度なんです。

まず課税時期がそうです。所得税なら毎年春に確定申告がありますし、法人税なら3月が決算なので申告はこの月というように、あらかじめ決まっていますよね。

しかし相続税の場合、当たり前の話ですが、人が亡くなるタイミング自体バラバラですから、申告時期もバラバラです。

次に必要書類が違います。所得税や法人税では、源泉徴収票や売掛帳・買掛帳など、申告書に記載する数字の根拠となる書類が欠かせません。

節税意識が高まっている証拠だと思います。たとえば東京23区内にマイホームがあり、住宅ローンの返済も終わっているような方や、生命保険をいくつも契約しているような方の場合、法改正によって相続税の課税対象に含まれるようになりました。

そのような方の中には、税理士をうまく活用して節税したいと考える人が多いのではないでしょうか。

――日本人の節税意識が高まるのは良いことだと思うのですが、実際には相続税について知識がない方が大半です

だからこそ税理士が必要とされるわけです。しかし問題なのは、税理士だからといって、必ずしも相続税について詳しいとは限らないことです。

国内の税理士は7万人ほどいますが、そのうち相続税法の知識が豊富で、納税者が安心して任せられる税理士となると、おそらく1割もいません。

――だとすると、納税者の立場からは「どうやって信頼できる税理士を見つけるか」で悩むことになりますね

そうですね。親戚や会社の同僚から信頼できる税理士を紹介してもらうのが一番なのでしょうが、実際はインターネットを使って税理士を探す人が多いでしょうね。

5. 「自分で申告」が向く人、向かない人

――相続税の場合、どのような人が自主申告・自主納付に向いていますか

しかし相続税の場合、そういった計算書類は法定調書の中に含まれていません。生命保険や退職金の支払調書など、わずかな例外があるだけです。

納税者の人数も特殊です。所得税は一人の個人、法人税は一つの企業が納税者です。しかし相続税の場合、相続人が複数いるケースがむしろ一般的ですよね。

国税局OB 福士税理士インタビューカット②

そしてこれが最も大きな特徴だと思うのですが、相続税の場合、課税財産の所有者であったご本人がすでにこの世にいないわけです。

したがって財産の状況を客観的に把握し、正確な申告書を作成するには、ご遺族や会社の方、時には友人・知人など、多くの方から話を聴く必要があります。このように、一人で完結しないところも相続税の申告における難しいポイントですね。

4. 高まる節税への意識

――会社経営者や資産家ではない、ごく一般的なご家庭の場合、顧問税理士を雇っているケースは稀ですよね

そうですね。しかし税理士に相談したいというニーズは、以前よりもかなり増えているように思います。

そのきっかけとなったのが、平成27年の税制改正です。相続税の基礎控除が大幅に下がったため、「どうやったら相続税を節税できるか?」を、みなさん真剣に考えるようになりました。

――ネットを使って節税情報を調べる人も非常に増えていますね

まず意欲がないと難しいでしょうね。相続税法の知識をしっかり勉強して、実行に移せる意欲がどうしても必要です。

ある程度時間に余裕があることも必要な条件でしょう。相続税の申告期限までに10か月あるとはいえ、忙しく働いている人が準備するのは大変なことですから。

それに相続手続に欠かせない戸籍謄本や残高証明といった書類は、窓口で請求する場合、原則として平日のみの受付ですので、仕事を休んで対応しなければいけない場合もあります。

したがって本業が忙しい方が一人で相続税申告の準備をするのは、少し難易度が高いかもしれませんね。

――相続税法に関する知識はどのくらいのレベルが必要ですか

それほど多くの知識はいらないのですが、財産を漏れなく把握・整理したうえで、正確に申告書を作成するには、知識だけでなく実務経験があるほうが安心です。

――一般の方で、一生のうちにそう何度も相続税の申告を経験する人は少ないですよね

そうなんです。ですから少しでも不安な点や曖昧な点がある場合は、税理士に相談するのがおすすめですね。

――税理士に相談する場合、一括で費用を払えば何度でも相談できるのですか

30分で5000円、1時間で1万円というように、相談するたびに規定の料金が発生します。したがって初回相談時に受け取った見積金額よりも、大幅に追加料金が発生してしまう場合もないわけではありません。

――だからといって、あちこちの税理士をまわって無料相談をくり返すのも効率が悪いですよね

そうですね。相談するたびに事実関係をゼロから説明しないといけないわけですから。費用を安く抑えたい気持ちはわかりますが、無料相談をくり返し利用するのはおすすめできません。

6. 自分で申告を行う時に気をつけるべきポイント!

6-1. 「税理士を利用しているかどうか」は関係ない

―― まず前提として、申告書の内容さえ正しければ、税理士に依頼しようと自分で申告しようとどちらでも良い、という理解であっていますか?

仰るとおりです。税務署としては、税理士を利用するかどうかは問いません。申告書の内容が正しければ良いわけです。納税者の方からしても、手数料がかからない分、費用も安く上がりますしね。

―― とはいえ、税理士の力を借りたほうが良い場面はありますか

特に相続財産に不動産がある場合、土地の測量や計算方法など特殊な知識を要するので、自分で間違わずに計算するのは相当難しいかもしれません。この間違いが最も多いですね。

あとは、添付書類の不備もよくあります。「この事実を証明するにはこの資料が必要」といった知識は、一般向けに書かれた相続税の本には書いてないことも多いので、やはり税理士にチェックしてもらうのが得策です。

今はメールで相談を受け付けている税理士事務所や、税理士とのつながりを売りとする便利なサービスがたくさんありますから、インターネットを使って探してみてはいかがでしょうか。

6-2. 抜け漏れやすい財産について

――抜け漏れやすい相続財産はありますか

特に抜け漏れやすいのは書画骨董ですね。取引の有無を確認するのが困難だからです。

たとえば不動産なら登記簿を見れば取引がわかりますよね。現金の動きも預金通帳をチェックすれば推測できます。

しかし書画骨董の類いは、登記簿や通帳のようなシステムが存在しないので、抜け漏れやすいのです。

――ではもし納税者が書画骨董が隠していたとしたら、税務署はどうやって見つけ出すのでしょうか

トランクルームを使っているかは必ずチェックします。書画骨董は保全状態が悪いと評価額が下がるので、一定の室温・湿度で保管できるトランクルームで管理していることが多いんです。

そこで税務署は、まず被相続人の通帳を拝見します。毎月なんらかの使用料が引き落とされている場合、ご家族に対して何の費用かを確認するんです。

「実はトランクルームを借りていて、大事なものを保管している」と教えていただけたら、承諾を得てトランクルームの中を拝見します。
国税局OB 福士税理士インタビューカット③

6-3. タンス預金は必ず見つかる

――相続人自身も知らなかった財産が税務調査で見つかることもあるのでしょうか

たとえば「お父さんが亡くなったので銀行預金を調べてみたところ、奥さんやお子さんの名義で口座を作っていて、1千万を超える残高があった」といったケースはよくあります。

被相続人が家族名義で株取引をしていたり、貸金庫に現金を隠していたりすると、相続人がその財産を把握しないまま相続税申告をしてしまうケースが頻発します。

隠し財産が見つかった場合には、修正申告をしないといけないわけです。しかし中には「黙っていればわからないだろう」と考える人もいますね。

――超低金利時代ですから、貸金庫やタンスにへそくりを隠して、あわよくば相続税も逃れようという気持ちはわからなくもないですが

そうですね。しかし、もちろんそのような考え方は通用しません。

タンス預金も、ご本人は隠し通せるつもりなんですよ、きっと。しかし税務調査でご自宅にうかがった際は、私たちも次回以降の調査の端緒をつかむために出向いてますので、家の中をできるだけ調べさせていただくんです。

――怪しいところは全部調べるわけですね

はい。これはよくあることなのですが、寝室を見せていただこうとすると、やはり奥様方はかなり抵抗されますね(笑)。

――それはそうですよね。女性からすれば、寝室を洗いざらい調べられるなんて、生きた心地がしないのでは

「いったいなんの権限があって……」と思うのは当然ですよね。しかし私たちも仕事ですから、引き下がるわけにはいきません。

――手ぶらで帰るわけにはいかないですからね

そうなんです。ですから税理士さんが立ち会っている場合には、なんとか任意で調査にご協力いただけるように、税理士さんからも説得していただきます。

――ここまでのお話によると、タンス預金などは別として、不動産や保険金、退職金といった一般的な相続財産の場合、申告漏れはあまり起きないという印象を受けますね。

そうだと思います。特に税法で法定調書を提出するよう定められている財産については、申告漏れはまず起こりません。生命保険金や死亡退職金のように支払調書が税務署に提出される財産ですね。

6-4. 不動産の売買履歴も税務調査時の参考に

不動産も同じです。税務署はいつでも登記情報を照会できますから、被相続人が所有する不動産の有無はもちろん、被相続人が誰かに土地を売却したりすれば、その情報も漏れなく把握できるわけです。

――不動産の所有権移転登記は義務ではありませんよね。それでも売却したことが見つかってしまうのはなぜですか

不動産の売却では動くお金が大きいので、売主と買主の間に銀行や司法書士が入ることがほとんどです。

銀行や司法書士が介在する場合、売買代金の支払いと所有権移転登記は同時履行が慣例です。したがって被相続人が、生前誰かに自己所有の不動産を売却していれば、その情報は登記簿に反映されているとみて間違いないでしょう。

――生前に売買していれば、当然その売却代金はどうなったか、きちんと相続財産に含めているかという問題が出てきますよね

はい。税務署も正にそこを突くわけです。

6-5. 故意と過失ではペナルティの重さが違うことに注意

――納税者が財産隠しをすれば罰則が適用されるわけですが、うっかりミスで申告しなかった場合も同様の罰を受けるのでしょうか

うっかりミスで申告しなかった場合は、故意で財産隠しをした場合よりも軽いペナルティが適用されます。

――うっかりミスによる申告漏れは多いのでしょうか

多いですよ。たとえば被相続人が家族に黙って貸金庫を契約していたら、そこにいくらのお金が入っているかなんて、本人以外わかりませんからね。

そういった秘密の財産が税務調査によって明らかにされることは珍しくありません。時にはご遺族から感謝されることもあるんですよ。「こんなにたくさんの遺産があったなんて!」と(笑)。

――納税してもお金が残りますから「棚からぼた餅」ですよね

正にその通りですね。しかしそういった秘密の財産が見つかったとしても、よくよく調べてみると「ああ、これはちょっと変だな」というケースもよくあります。

たとえば被相続人の死亡後、相続税申告書に載せていない銀行の普通預金の口座があることがわかったので調べてみると、相続発生後3年ぐらいかけて少しずつ引き出していた……というケースもありました。

――ご本人は「見つからないはず」と思っていたわけですか

はい。本人はもう亡くなっていますので、遺族の誰かが引き出していることは誰の目にも明らかですよね。

このようなケースでは、「相続財産とは知らずにうっかり使ってしまった」などと言い逃れできません。故意に相続財産を隠したことになるので、重加算税が適用されます。

――そういったケースだと、たとえ税理士でも隠し財産を把握できないですね

税理士は、相続人が正直に事実を述べていることを前提としますから、意図的に財産を隠されると、相続財産を正確に把握できなくなります。

――初めて相談する税理士に、財産や家族関係のことなどを洗いざらい話したくないと考える人もいるのでは

そういう方もいるでしょうね。たとえば、被相続人が同族会社を経営していて、その顧問税理士が相続税の手続も担当するようなケースなら、財産状況はもちろん、被相続人と家族の関係についてもおおむね理解しているでしょう。

したがって税理士としても、遺族に対してざっくばらんに遺産のことを確認できるはずですから、申告漏れも起きにくくなります。

――ということは、相続税の申告を顧問税理士以外の税理士に任せていたら、なにか裏があるかもしれないと税務署は考えるわけですか

はい。普通に考えれば、被相続人と信頼関係を維持してきた顧問税理士を、相続税申告にかぎって担当させない理由はないはずです。だとすると、なにかやましい事情があるのではないか、財産隠しをしようと企んでいるのではないかと、疑ってしまいますね。

7. 自分で申告をする方にメッセージ

――最後に、これから自分一人の力で相続税の申告をおこなおうと考えている方に向けて、メッセージをお願いします

とにかく、税務署に目を付けられないことを意識してください。資料を漏れなく集め、適切に分類し、正確に計算すれば、税務署に怪しまれない立派な申告書を作成できるはずです。

国税局OB 福士税理士インタビューカット④

現代はネット社会ですから、税理士のような専門家探しも、家族や知人の口コミよりは、ネットサービスを使って比較検討するほうが効率的だと思います。

最近では様々なサービスもありますので、自分で申告する場合にも、すべて自分でやるのではなくて、最終的には専門家にチェックしてもらうなどを検討しても良いかもしれません。

大変なところもありますが、ご遺族が残された大切な財産の手続きを自分自身で行おうとすることは、それ自体がとても素晴らしいことだと思います。頑張ってください。

――本日はお忙しい中お時間を割いていただき、ありがとうございました

 

8. 自分で申告サポートサービス「better相続」について

最後に、弊社が運営する、自分で申告を行いたい方向けのサービス「better相続」のご紹介です。

「better相続」とは、相続税申告を低価格・定額で、ご自身で完結できるウェブサービスです。追加オプションをつければ、提携税理士による相続税申告のレビューも可能です。自分でやりたい、でも税理士さんに相談したい…という方にとっては、普通に税理士さんに依頼するよりも大変お安く、そして確実に申告を完了させることができるものとなっております。

そこで、こうしたサービスを利用することについて、福士さんにご感想を伺ってみました。

――福士さんから見たbetter相続の印象をお聞かせいただけますか

非常に新しいサービスだと思います。初めから税理士に数十万円払って丸投げするのではなくて、納税者が主体的に納税をおこなうためのサポートをするわけですからね。

もし私が税金の知識のないごく普通の納税者だとして、亡くなった親の相続手続を自分でなんとかしたいと思ったら……お得な料金で専門家のアドバイスが受けられる、better相続のようなネットサービスを積極的に利用したいと考えるでしょうね。

――税務署から見ると、こういったサービスは「怪しい……」と感じますか

それはまったくないです。税理士に直接依頼するか、better相続を経由するかの違いだけで、税理士にアドバイスをもらう点では同じですから。

書店で買った相続税の本を見ながら、あれこれ迷いつつ仕上げた申告書を提出するよりも、better相続を利用するほうが、よほど客観的で信頼できる申告書を作成できるはずですよ。

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