名義人が死亡した時の銀行口座の相続手続きや凍結後について解説
名義人が死亡した場合、相続の手続きが必要です。銀行口座も相続財産となるため、手続きを行う必要があります。
今回は預金口座の名義人が死亡した際、銀行でどのような手続きを行うのかについて解説します。手続きの流れや必要書類、注意点などをまとめましたので、参考にしていただけますと幸いです。
目次
名義人が死亡した時の銀行口座の相続手続きの流れ
相続が発生した際、銀行口座の相続手続きの流れについて解説します。
①故人名義の通帳の記帳を行う
まずは亡くなった方の預金を把握するため、通帳の記帳を行います。預金を把握することにより、相続人間でどのように財産を分けるのか、相続税申告が必要になるかなど、他の相続手続きを進めるために必要な情報を得ることができます。
また、定期的な支払いを把握することもできるため、公共料金やクレジットカードを停止するための情報も手に入ります。
銀行口座が凍結される前ならATMで記帳することができます。口座が凍結された場合でもATMで記帳できる銀行もありますが、窓口のみで記帳を行う銀行もありますのでホームページなどで確認されることをおすすめします。
通帳がない場合は残高証明書や取引履歴証明書を発行してもらうことで預金額や取引履歴を確認することができますが、銀行への連絡が必要となるため、口座が凍結されます。
②故人名義の口座からの引き落としを変更する
公共料金やクレジットカードの支払いなど、定期的に引き落としのあるものに関しては引き落とし先の変更や解約手続きを行います。公共料金など相続人が継続して使うものは引き落とし口座を変更、クレジットカードなど相続人が使えないものに関しては解約します。
引き落とし前に口座が凍結されると未払金が発生し、相続人が支払うこととなります。現金が用意できない場合は故人の口座から引き落とされるのを待つのが良いです。
③銀行へ名義人が死亡したことを連絡する
記帳や引き落としの手続きが完了した後、銀行へ名義人が死亡したことを伝えます。口座のある銀行へ電話や来店、webフォームなどから連絡をします。これにより銀行口座が凍結され、引き落としや引き出しができなくなります。
口座を凍結することにより、他の相続人が勝手に口座から預金を引き出すなどのトラブルを避けることができます。必要な手続きを行うまで凍結されたままとなります。
亡くなったことを銀行へ伝えた際、解約・名義変更に必要な案内を行ってくれるため、必要書類などを用意してその後の手続きを進めます。
④故人の預金を誰がどのように相続するのか決める
銀行口座の凍結後、誰がどのように預金を相続するのか決めます。
遺言書があり、預金について記載がある場合は記載内容に従って相続をします。遺言書が無い、あるが預金の記載がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、決まった内容で遺産分割協議書を作成します。
故人に借金が多い場合や、他の財産も含めて相続したくない場合は相続開始を知った時からから3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄の申立を行います。
⑤死亡後の銀行口座の相続手続きに必要な書類を集める
預金の相続方法について決定した後、口座の解約・名義変更の手続きに必要となる書類を集めます。
遺言書や遺産分割協議書の有無によって必要となる書類が異なります。どのような書類が必要なのかは後ほど解説します。
⑥死亡した名義人の預金の払い戻しや名義変更を行う
必要書類の収集や作成、記入が完了した後、銀行へ提出します。銀行へ提出してから約1か月程度で預金を解約・名義変更することができます。
ネットバンクの名義人が死亡した時の銀行口座の相続手続き
ネットバンクの場合も上記の流れで相続手続きを行います。電話などで亡くなったことを銀行側へ伝えると今後の手続きの流れや必要書類について案内してくれます。この時、パスワードや暗証番号が不明でも手続きをすすめられることが多いです。
各種書類が銀行から送られてきますので、記入や必要書類の提出を行います。銀行が必要書類を確認した後、解約や払い戻しが完了します。
ネットバンクは通帳がないため、キャッシュカードやスマホアプリ、メール、はがきなどを頼りに探すことをおすすめします。
口座が凍結されるタイミングは銀行が死亡を把握した時
故人の銀行口座が凍結するタイミングは銀行が死亡を把握したタイミングです。相続人が銀行へ連絡をするのはもちろん、行員が新聞の訃報欄を見て相続人へ確認し、凍結を行うこともあるそうです。
同一の金融機関で別支店の口座がある場合、1つの支店に連絡をするとすべての口座が凍結されます。そのため、すべての支店の記帳を終えてから連絡を行うことをおすすめします。
通帳記帳を行おうとしたがATMでできなかった場合、他の親族が銀行へ連絡し、口座が凍結されている可能性もあるため、親族間で確認を行いましょう。
記帳前に故人の銀行口座が凍結された場合は窓口へ連絡
通帳記帳を行う前に口座が凍結されてしまうと、金融機関によってはATMでの記帳ができなくなります。その場合は窓口で残高証明書を発行してもらうことで相続発生時の預金残高を把握することができます。
預金残高証明書を発行するには以下の書類が必要となります。
- 名義人が死亡したことが分かる書類(戸籍謄本など)
- 相続人であることが証明できる書類
- 印鑑登録証明書
金融機関によっては他にも必要となるものがあるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
また、残高証明書を発行する際に手数料が1,000円前後かかるため、現金の準備も行った上で取得しに行きましょう。
名義人が死亡した時の銀行口座の相続手続きで必要な書類
銀行の相続手続きに必要な書類は、遺言書の有無・遺産分割協議書の有無によって異なります。どのような書類が必要になるのか、それぞれのパターンに合わせて解説します。
遺言書がある場合の必要書類
遺言書があり、遺言執行者が手続きを行う場合に必要な書類は以下の通りです。銀行によって異なることもあるため、銀行からの案内の確認をおすすめします。
書類の種類 | 取得場所 |
故人の戸籍謄本(原本)※発行から1年以内 | 市区町村役場 |
受遺者の印鑑登録証明書(原本)※発行から6か月以内 | 市区町村役場 |
受遺者の実印 | 自宅 |
遺言書または遺言書情報証明書(原本)※公正証書遺言の場合は遺言書謄本の原本が必要 | 自宅 |
検認済証明書(原本)※自筆証書遺言の場合に必要 | 家庭裁判所 |
故人の通帳・証書・キャッシュカードなど | 自宅 |
遺産分割協議書がある場合の必要書類
遺言がなく、遺産分割協議書を作成した場合に必要となる書類は以下の通りです。
こちらも銀行によって異なることもあるため、銀行からの案内の確認をおすすめします
書類の種類 | 取得場所 |
故人の戸籍謄本(原本)※発行から1年以内 | 市区町村役場 |
すべての相続人の戸籍抄本または戸籍謄本※故人の戸籍謄本又は法定相続情報証明で分かる場合は不要 ※発行から1年以内 | 市区町村役場 |
すべての相続人の印鑑登録証明書(原本)※発行から6か月以内 | 市区町村役場 |
手続者の実印 | 個人 |
遺産分割協議書 | 個人 |
故人の通帳・証書・キャッシュカードなど | 個人 |
遺産分割協議書がない場合の必要書類
相続人が1人のみなど遺産分割協議書は必要ない場合は、以下の書類を用意します。
詳細は銀行からの案内を確認することをおすすめします。
書類の種類 | 取得場所 |
故人の戸籍謄本(原本)※発行から1年以内 | 市区町村役場 |
すべての相続人の戸籍抄本または戸籍謄本※故人の戸籍謄本又は法定相続情報証明で分かる場合は不要 ※発行から1年以内 | 市区町村役場 |
すべての相続人の印鑑登録証明書(原本)※発行から6か月以内 | 市区町村役場 |
手続者の実印 | 個人 |
故人の通帳・証書・キャッシュカードなど | 個人 |
銀行に提出する必要書類はコピーではいけない
多くの銀行が戸籍謄本や印鑑登録証明書、遺産分割協議書は原本での提出を求めています。
一般的に戸籍謄本や印鑑登録証明書、遺産分割協議書の原本はコピーをとって返却されるため、他の相続手続きでも利用することができます。銀行によって原本還付の希望を伝えなればいけない場合もあるため、銀行からの案内を確認することをおすすめします。
原本は数日~数週間で返却されるため、手続きが必要な銀行が多いほど書類の提出に時間がかかってしまいます。相続税申告など期限のある手続きを行わなくてはいけない場合、銀行の相続手続きを早く完了させ、期限内に相続手続きを終わらせることをおすすめします。
死亡した名義人の銀行口座の相続手続きは自分で行うか専門家に依頼するか
銀行口座の相続手続きは必要書類を集めて提出するため、専門的な知識は特に必要ではありません。そのため、専門家へ依頼せずに自分で行うことができます。自分で行うと書類の取得にかかる実費のみで完了するため、費用を抑えることができます。
しかし、役所や銀行は平日の日中のみしか対応していないため、働いている方だと時間が取れず、自分で手続きを行うのは難しい、時間がかかってしまうという方もいらっしゃいます。そのような方は行政書士などの専門家へ依頼し、銀行口座の解約手続きを代行してもらうことをおすすめします。費用は1口座あたり3万円~となっています。
書類収集だけは専門家へ依頼し、銀行口座の手続きは自分で行うということもできますので、費用や時間、手間などを考慮して判断することをおすすめします。
名義人が死亡して銀行口座の相続手続きを行うのにかかる費用
銀行口座の相続手続きにかかる費用は約2,000円ほどです。戸籍謄本が450円、印鑑登録証明書が300円、残高証明書が1,000円程度という内訳です。相続人や銀行口座の数が多いほど必要となる書類や残高証明書の数が増えるため費用が高くなります。
ただし、戸籍謄本や印鑑登録証明書は原本還付されるため、複数の口座がある場合、2口座目以降の手続きは残高証明書分で済むことが多いです。
なお、専門家へ依頼すると1口座あたり3万円ほどの費用がかかります。
故人の預金が少額の場合は凍結したままにする
故人の預金が少額で、解約手続きの費用と手間が見合わない場合は凍結したままにする方法もあります。
故人名義の銀行口座を放置していても罰則はありません。また、入出金が10年ないと休眠口座となり、残金は休眠預金等活用法によって民間公益活動のために活用されます。
銀行口座の名義人が死亡した時に預金を引き出してはいけない
口座の名義人が亡くなった際、凍結前に預金を引き出してはいけません。引き出してしまうと財産と債務のどちらも引き継ぐ『単純承認』をしたとみなされ、相続放棄ができなくなります。
財産を調べていく内に故人に多額の借金があるとわかった場合、預金を引き出していると相続放棄ができず、借金を引き継がなくてはいけない可能性があります。
使用用途によっては口座から引き出しても相続放棄が認められる
葬儀など使用用途によっては故人の口座から引き出しても単純承認にはならず、相続放棄できる可能性もあります。
社会通念上考えられる葬儀費用の範囲内なら、被相続人の口座から引き出した現金を使用しても相続放棄が認められるという判決が過去にあります。
もし、故人の口座から葬儀費用を払いたい場合は、明細書や領収書などの原本を保管しておき、適切であったことを説明できるようにすることをおすすめします。
遺産分割前でも預金を引き出すことができる
遺産分割前の相続預金払い戻し制度というものがあり、遺産分割が完了していなくても預金の一部を払い戻せます。これにより、相続人全員で話し合う前に葬儀費用や生活費をある程度確保することができます。
引き落とせる金額は、【相続開始時の預金額 × 1 / 3 × 払戻しを行う相続人の法定相続分】です。ただし、同一の金融機関から引き落とせるのは150万円までとなっています。
この制度を利用する際は以下の書類が必要となります。
- 故人の出生から死亡までの戸籍謄本
- すべての相続人の戸籍抄本または戸籍謄本
- 払い戻しを希望する相続人の印鑑登録証明書
また、払い戻しまでに一定の時間を要するため、預金を引き出さなくてはいけない場合は早めに書類の収集や銀行での手続きを行いましょう。
相続人名義だが故人が管理していた銀行口座の手続き
名義は別の人で実際に管理しているのは故人だった場合、贈与が完了していなければ、名義預金として相続財産に含まなくてはいけません。
名義預金の残高証明書を取得するには、名義人本人が銀行で手続きを行うのが原則です。ただし、委任状や依頼書があれば本人以外の人が残高証明書を取得することもできます。
名義預金を申告しないと税務調査が入り、追徴課税となる可能性もあるため、相続人に名義預金がないか確認し、相続財産に含めて申告しましょう。
銀行以外の相続手続きも忘れずに行おう
銀行口座の相続手続き以外にも、相続税申告や相続登記など様々な手続きが必要になることもあります。期限を過ぎてしまうと過料や追徴課税といったペナルティもあるため、早めに着手して終わらせることをおすすめします。
どのような手続きが必要になるのか確認したい方は『better相続手続きガイド』をご利用ください。診断に答えると、相続手続きに必要なことや全体像、スケジュール、進め方の詳細や注意点等が分かるようになる無料サービスです。また、やらなければならないことがToDoリストになっており、進捗管理することもできます。
詳しい解説や必要書類も記載してありますので、ぜひご利用ください。
監修者情報
徳永 和喜(公認会計士)
高校卒業して就職後、一念発起して公認会計士試験合格。
2018年から株式会社better創業メンバー取締役としてbetter相続Webアプリケーション開発に従事。公認会計士/税理士とエンジニアを兼務しながら、相続税申告の案件にも携わる。
2022年10月、経営統合により辻・本郷ITコンサルティング株式会社の執行役員就任。better相続事業部長として、自分で相続税申告や相続登記を行う方へより良いサービスの提供を目指している。