代襲相続についてトラブル対応方法などを解説
相続人に亡くなった方がいる場合、代襲相続が発生する可能性があります。
今回は代襲相続とは何かについて解説します。また、代襲相続におけるトラブルの対応方法についても解説しますので、参考にしていただけますと幸いです。
目次
代襲相続とは
代襲相続とは相続人が死亡するなどして次の世代の人が相続人になることです。代襲相続は法定相続人が死亡、廃除、欠格によって相続権を失ったときにおこります。
被相続人(亡くなった人)に子供がいたけれど被相続人の死亡前に亡くなっていた場合に、子供の子供(被相続人の孫)がいれば亡くなった子供に代わって孫が相続人になります。
このような例を代襲相続と言います。代襲相続は相続人が相続が開始する前に亡くなった時に次の世代の人が相続権を引き継ぐ制度です。
相続欠格とは
相続欠格とは、故意に被相続人を殺害したりして刑に処せられた者から相続権を剥奪する制度です。
他にも、詐欺や脅迫によって遺言書を撤回や変更、取り消しなどを行った場合や遺言書を偽造、破棄、隠匿などを行った場合に相続権を剥奪します。
民法891条にて定められています。
相続廃除とは
被相続人を虐待したり侮辱したりしたことにより被相続人自らが生前に家庭裁判所に請求して相続人から除外することをいいます。民法892条にて定められています。
また、被相続人が遺言に廃除する意思を表明していた場合、遺言執行者は家庭裁判所へ推定相続人の廃除を請求します。こちらは民法893条にて定められています。
代襲相続人になるのは誰なのか
代襲相続になるのは以下の通りです。
- 被相続人の孫や曾孫などの直系卑属
- 被相続人の甥姪
被相続人の孫や曾孫などの直系卑属
被相続人の子が死亡などしていた場合、被相続人の孫が代襲相続人となります。被相続人の孫が死亡などしていた場合、その子にあたる曾孫が代襲相続人となります。
このように、直系卑属の場合は何代までといった制限がないため子が亡くなっていれば孫、孫が亡くなっていればひ孫と下の代が途絶えるまで代襲相続が続きます。
被相続人の甥姪
被相続人の両親や子がいない場合、被相続人の兄弟が相続人になることがあります。本来相続人になるはずだった兄弟が死亡などしていた場合、兄弟の子(甥・姪)が代襲相続人となります。
甥・姪が死亡などしていた場合、その子には代襲相続が移りません。
代襲相続における法定相続分の割合は?
法定相続人の組み合わせによってそれぞれ誰がいくらの割合で相続するか(相続分)が民法に定められています。
配偶者 | 子 | 親 | 兄弟姉妹 | |
配偶者と子 | 1/2 | 1/2 | ||
配偶者と親 | 2/3 | 1/3 | ||
配偶者と兄弟姉妹 | 3/4 | 1/4 |
代襲相続人は、相続権を失った本来の相続人の相続分を引き継ぎます。
孫が代襲相続する場合
孫が代襲相続人の場合は子(孫の親)の相続分を引き継ぎます。例えば夫(A)が死亡し、その妻(B)と子供二人(C・D)が相続人の場合を想定しましょう。配偶者である妻(B)は2分の1、子供二人(C・D)は2分の1を半分ずつ(4分の1)相続します。
子供Cが被相続人である夫(A)よりも先に亡くなりCに子供E・FがいるときはE・Fが、本来Cが相続するはずだった相続分4分の1を等分して8分1ずつを相続することになります。
甥・姪の場合
被相続人の兄弟が相続人になるのは、被相続人の両親や子が相続しない場合です。亡くなっている場合や相続放棄をした場合、兄弟が相続人となります。
兄弟の法定相続分は配偶者がいる場合、相続分は1/4となります。兄弟に子が2人おり、代襲相続が発生している場合、甥・姪の相続分は1/8となります。
亡くなった兄弟姉妹に子供がいない場合には配偶者が100%相続します。
代襲相続の場合、税金はどれくらい取られるのか?
相続が発生すれば相続税を納めることになります。ただし、相続財産が基礎控除額に満たない場合は非課税になるため相続税はかかりません。
相続財産から基礎控除額を差し引いた残額に対して相続税が発生します。
相続税の基礎控除の仕組み
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
法定相続人が3人の場合は、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円が基礎控除額です。
相続財産が4,000万円であれば相続税は非課税であり、5,000万円であれば基礎控除額との差額200万円に対して相続税が課税されます。法定相続人の数が基礎控除額に影響しますので、法定相続人の範囲はどこまでかを注意しましょう。
代襲相続や相続放棄があった場合、養子縁組の場合など民法上の相続人と税法上の相続人は異なることがありますので注意しましょう。
事例
相続税を計算するうえで、代襲相続や相続放棄があった場合、養子縁組の場合など相続人として数えることができるのかを確認しましょう。
1.代襲相続の場合
代襲相続人は相続人として数えます。
例えば1人の子供が死亡し、その子に子(孫)が2人いて代襲相続をした場合の相続人は1人ではなく2人として控除額を計算します。
そのため、孫2人のみが相続人の場合、3,000万円+600万円×2=4,200万円が基礎控除となります。
2.相続放棄の場合
相続放棄をすれば相続権を失うので、相続人ではありません。
ところが、相続税のうえでは相続放棄をした人も相続人として控除額を計算します。なお、相続放棄を行った場合は、代襲相続はできないので注意が必要です。
例えば、子が2人が相続人で、そのうちの1人が相続放棄した場合、3,000万円+600万円×2=4,200万円が基礎控除となります。
3.養子縁組の場合
被相続人に実子がいる場合は養子が何人いても養子は1人として計算します。被相続人に実子がいないときは、養子は2人まで子として数えます。
また、代襲相続人が被相続人の養子となっている場合は、二重相続資格者といいます。その場合、相続人としての地位は養子(子)と代襲相続人(孫)の2種類ありますが税法上は1人として数えます。
ただし、民法上で相続分の計算をするときは子(養子)としての相続分と代襲相続人(孫)としての相続分との合計になります。
このように税法上の相続人と民法上の相続人とは異なるため、代襲相続や相続放棄、養子縁組の場合に相続人として数えてよいのか判断が難しいことがあります。
代襲相続において注意すべきケース
預貯金や株式などを相続する際に相続人が複数いるとき、法定相続分通りに相続しない限りは相続人全員で遺産分割について話し合い(遺産分割協議)を行なう必要があります。
しかし、遺産分割協議は相続人が増えるほど話し合いがまとまりにくいのが実情です。
代襲相続が発生して普段面識がない人が相続人になればますます話し合いがまとまりにくくなるおそれがあり、また代襲相続人に連絡したくても連絡先がわからないこともあります。
不動産の代襲相続
不動産について注意すべきことは2024年4月1日から相続登記が義務化されることです。
相続が開始したこと(被相続人の死亡の事実)を知り所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続による所有権移転の登記を申請しなければならなくなります。正当な理由がないのに相続登記をしない場合は10万円以下の過料を科されるおそれがありますので注意しましょう。
また自宅を複数の相続人が別々に分けて相続することは難しいことです。例えば、一つの土地を分筆して別々の土地として相続することは可能です。しかし、自宅の敷地を分筆して相続しても小さな土地やいびつな土地になってしまい、売却しても価値が出ない土地になってしまうことがあります。
また、1戸の建物を別々の建物にすることはできません。
このように相続人が増えるほど不動産の相続は難しくなるため、代襲相続がおこったときやおこるおそれがあるときは、話し合いができる相続人の間で相続手続きをなるべく早いうちにすませましょう。
養子の場合の代襲相続
養子であっても子供ですから相続人になります。ただし、養子の子が代襲相続人になるかは養子縁組の日と子供の生まれた日の先後によることに注意しましょう。
養子縁組前に生まれた養子の子は、被相続人の『直系卑属』ではありません。
そのため、被相続人と養子縁組をした後に生まれた子供は代襲相続人になりますが、養子縁組をするより前に生まれていた子は代襲相続人になりません。
養子の子供は全て代襲相続人になるのではなく、被相続人と養子とが養子縁組をした後に生まれた養子の子のみが代襲相続人になります。
トラブル事例
代襲相続がおこり、どのような問題がおこるおそれがあるかを紹介します。
事例1
親が亡くなり親と同居していた子(A)と別に住んでいる子(B)がいて別居している子(B)が亡くなりBの子(孫)が代襲相続した場合
Aは親と最期まで同居して親の面倒をみていたし、実際に親の自宅に住んでいます。
親の財産を全てAが管理しており、相続財産がどれくらいあるものかさえも代襲相続人であるBの子供には教えてもらえない事例があります。
事例2
相続人である子が離婚していて離婚した前妻との間の子供(孫)は前妻が引き取っていることがあります。
この場合前妻との子供とまったく疎遠になってしまい、連絡先さえもわからないこと、連絡先がわかっても感情的に話し合いに入ってもらえない事例があります。
事例3
父親が亡くなった際に相続放棄をしたけれど代襲相続によって改めて相続放棄をしなければならなくなることがあります。叔父が亡くなったので代襲相続人になったために、叔父の債権者から支払い督促が送られてきたような事例です。
このケースでは父親の相続放棄をしても被相続人が異なるので叔父の相続についても改めて相続放棄の手続きをしなければなりません。
このように代襲相続によって、相続関係が変わってくるため相続が複雑で難しくなることがあります。
代襲相続になった場合の対応方法
親や兄弟姉妹が元気なうちに、なるべく世代をまたがらずに相続についての話し合いをすませておければ安心です。
亡くなる前(話し合う、遺言を書いて貰う、生前贈与する)
親が元気なうちに相続について話し合い、必要なら遺言書を書いてもらうことや生前贈与することも相談してみましょう。
親が高齢になればいずれは相続が発生します。兄弟姉妹が思わず親よりも早く亡くなってしまうこともあります。相続人の数が多くなれば、それだけ遺産分割の話し合いがまとまりにくくなります。
代襲相続によって普段連絡をとらなくなっている疎遠の人達が話し合うことは、遠距離に住んでいることもあったり感情的な理由もあったりして、なかなか分割協議がすすみません。
親が元気なうちに亡くなった時のことを話し合うのははばかられますが、できるだけ話し合っておきましょう。なにより、日ごろから相続人の間でコミュニケーションをはかり、スムーズな人間関係を築いておくことが大切です。
亡くなった後(弁護士に相談)
相続が開始し、誰が遺産を相続するかの話し合いがまとまらず、紛争になってしまうことがあります。
相続財産を複数の相続人が相続した場合には、遺言があれば遺言書にしたがって相続し、遺言がなければ法定相続分通りに相続する以外は遺産分割の協議を行なうことになります。遺産分割協議がととのわなければ家庭裁判所で調停や審判をしなければなりません。
協議がまとまらず、紛争になるおそれがある場合には早めに弁護士に相談しておくと安心できます。弁護士に依頼することで、話し合いの過程をわかりやすく説明してもらえ、アドバイスやリスクを教えてもらえるメリットがあります。
監修者情報
徳永 和喜(公認会計士)
高校卒業して就職後、一念発起して公認会計士試験合格。
2018年から株式会社better創業メンバー取締役としてbetter相続Webアプリケーション開発に従事。公認会計士/税理士とエンジニアを兼務しながら、相続税申告の案件にも携わる。
2022年10月、経営統合により辻・本郷ITコンサルティング株式会社の執行役員就任。better相続事業部長として、自分で相続税申告や相続登記を行う方へより良いサービスの提供を目指している。