「代償分割ってどんな制度?」
遺産を分けることになり代償分割というものを知った。しかし、専門用語が多くてどんな制度かよく分からないですよね。
そこでこの記事では、
・代償分割とはどんな制度か
・代償分割のメリット、デメリット
・代償分割を行う5つのケース
について、図を用いながら分かりやすく解説していきます。
さらに、「代償分割での相続税の計算方法」や「代償分割の注意点」についても解説していますので、代償分割について分からないことがなくなるはずです!
代償分割について理解し、今後の遺産分割を円滑に進めていくために、この記事がお役に立てば幸いです。
代償分割とは
代償分割は「遺産を現物で取得した相続人が、その代わりとして他の相続人に対して代償金を支払う」遺産分割方法です。
代償分割は、不動産など均等な分割が難しい遺産を相続する際に用いる遺産分割方法です。例えば、実家などの不動産を取得した相続人が他の相続人に代償金を支払うことで、公平な遺産分割を行うものです。代償金の金額は、遺産分割協議による話し合いで、財産の価値等に応じて決定します。
代償分割以外の主な遺産分割方法としては、現物分割・換価分割・共有分割の3つが挙げられます。これら3つと代償分割との違いは、下記の通りです。
分割方法 | 概要 | 特徴・注意点 |
現物分割 | 現物の遺産をそのままの状態で分割する。 | 現金、預金、土地、家屋、株式などをそのまま相続できるが、財産ごとの価値が異なり公平性に欠けることも多い。 |
代償分割 | 遺産を相続した特定の相続人が、他の相続人に代償金を支払う。 | 複数の相続人のうち一人が不動産などを相続し、他の相続人に対しては現金などで支払い調整を行う。 |
換価分割 | 遺産を売却し、取得した売却金を分割する。 | 現金以外の財産を売却して現金化して分配できるため、公平性を保てる。遺産を売却したくない相続人がいる場合には利用できない。また、譲渡所得税が発生する点に注意。 |
共有分割 | 共同相続人が、遺産を共有取得する。 | 遺産を共有名義で相続するため、管理や活用法、売却などに関して相続人間でトラブルになることがある。 |
遺産分割を行う際には、「遺産が現金のみなのか、不動産が含まれるのか」などの視点から、最適な方法を選択します。相続人間のトラブルを避けるためにも、代償分割が最も有効な分割方法かを見極める必要があります。
代償分割の3つのメリット
公平な遺産分割につながる
代償分割のメリットとしてはまず、公平な遺産分割につながることが挙げられます。遺産相続に際しては、最適な遺産分割方法を選ばなかったことで分割内容が不公平となり、相続人間でトラブルになることも多いです。代償分割を採用することで、分割内容の公平性を保てるケースがあります。
例えば、相続人が三人兄弟で、遺産は3,000万円の価値がある実家一つだけというケースを想定しましょう。実家を相続するのは、元々亡父と住んでいた長男一人だとします。不動産である実家を均等に分割するのは難しく、このケースで現物分割を行うと不平等が生じます。
そして、相続権があるにも関わらず何も相続できないとなると、二人の弟は納得しないでしょう。そこで長男は、二人の弟に1,000万円ずつの代償金を支払います。こうすることで相続権のある相続人全員が、なんらかの形で遺産を相続することができます。
相続税を軽減できる
代償分割を行うと、相続税を軽減できるケースもあります。例えば、被相続人と同居する相続人が自宅を相続した場合には、小規模宅地等の特例が適用されます。
これによって自宅敷地の評価が80%減額されますが、この小規模宅地の特例が適用できるかどうかは相続人ごとに判定します。そのため、小規模宅地の特例が適用できる相続人が全て相続した方が相続税を下げることができます。
また、貸付事業用宅地や事業用宅地の相続時にも、小規模宅地の特例によって、最大80%の減額が適用されます。また、農地を相続した場合にも「農地の納税猶予」によって相続税の負担軽減が見込めるでしょう。
不動産などの財産を残せる
相続した不動産を現物のまま残せる点も、代償分割のメリットです。この点は、財産を現金化して相続人間で分配する換価分割と比較すると、特に大きなメリットと言えます。第一に、換価分割ではなく代償分割を選べば、「せっかく親から受け継いだ家なのだから残したい!」という思いを実現できるでしょう。
不動産として残しておけば、価値が上がったタイミングで売ることもできますし、価値を高めた上で次の世代に移していくことも可能です。このように将来的な活用の幅を広げることも含め、不動産を手元に残せる代償分割は換価分割にはないメリットがあるのです。
一方で、換価分割では遺産を売却して現金化して分割します。そのため、例えば、実家などの不動産を換価分割する場合には、不動産の売却タイミングを考慮せず売却してしまうので、将来の値上がり益などが期待できません。代償分割の場合には、不動産を手元に残せるため、将来活用できる可能性が残ります。
代償分割のデメリット
代償金支払いの負担が生じる
代償分割のデメリットとしてはまず、現物を相続した人に他の相続人への債務が発生することが挙げられます。あくまで相続人に代償金を用意するだけの資力がなければ、代償分割は成立しません。
代償財産は、必ずしも現金である必要はありません。しかし、生命保険金や相続人が所有する土地や建物など、現金の代わりに代償財産として活用できるものがなければ、結局のところ代償分割は成立しません。
代償金の評価額で揉めることも
代償分割の最大のメリットは、不動産という分割しづらい遺産を分割できることです。
代償分割には、分割しづらい不動産を分割するからこそのデメリットも伴います。不動産の評価額は相続税評価額、固定資産税評価額や市場価額など様々な時価があり、その時価を利用するかで相続人間で揉めるケースもあります。
代償金を支払う相続人は低く見積もり、代償金を受け取る相続人は高く見積もることが多いです。評価方法が一律ではないために協議が難航してしまうことも、代償分割のデメリットと言えます。
贈与税や譲渡所得税が発生することも
代償分割の際に、予期せぬ税金が発生することもあります。例えば、支払うべき代償金額以上の財産を渡してしまった場合には、差額分が贈与税の対象(受け取った側)になってしまいます。
また、代償分割の代償金は現金で支払われることが多いものの、不動産などを代償財産として他の相続人に渡すことも可能です。ただしこの場合には、特定の資産が「時価で譲渡された」と見なされて、譲渡所得税の対象となるので注意しましょう。
例えば、亡父の事業を長男が引き継ぐ場合に、事業用の宅地を相続する上で、自身が所有していた「取得価額1,000万円・時価3,000万円」の土地を同じく相続人である次男に与えたとします。すると差額分が譲渡所得と見なされ、2,000万円分に所得税が課税されます。このようにして、長男は譲渡所得税を支払わなくてはなりません。
代償分割が行われるケース
被相続人の住居に同居していた相続人が住み続ける
代償分割が行われる代表的な例としては、亡父の住居に同居していた長男が住み続けるケースなどが挙げられます。
長男はその家を相続して住み続ける代わりに、同じく相続権を持つ兄弟に代償金を支払います。これによって長男は単独で不動産を相続でき、兄弟としても代償金を受け取れるというメリットがあります。
このように代償分割をすることで、不動産を共有名義で相続する「共有分割」のトラブルも防ぐことができます。
相続人が同族会社の経営を引き継ぎ自社株式を相続する
特定の相続人が会社の経営を引き継ぐ場合にも、代償分割は有効です。
すでに経営に関わっていた長男が同族会社を引き継ぐため、自社株式を相続するとしましょう。会社の経営には関わっていなかったものの相続権を持つ兄弟とのトラブルを避けたい長男は、公平を期すために兄弟に現金を支払うことにします。これによって相続人間のトラブルを回避できる上に、会社の経営を合理的かつ安定的に進めることもできるのです。
店舗や事務所などの事業用不動産を相続する
事業用の宅地を相続する場合にも、代償分割が行われるケースがあります。
前述の株式を相続するケース同様に、事業を引き継ぐ相続人に不動産などの資産を集中させることで、スムーズに事業継承を行うことができます。その代わりに、他の相続人に対して代償金を支払うことで、公平な財産分割につながります。
現物分割で公平な分割ができない場合
複数の相続人間でそれぞれ現物の遺産を受け取ったものの、価値に大きな差がある場合にも代償分割は有効です。例えば、長男が3,000万円の土地を、次男が1,000万円の建物を、それぞれ相続したとします。長男が2,000万円分多く相続することになり、公平とは言えません。
しかし、土地を均等に分割するのは現実的ではないでしょう。この場合には、代償分割を選んで現金で補填することで、平等な相続を実現できます。この場合、長男が次男に1,000万円を支払うと、相続する価値が均等になります。
財産取得者に資力がある
上記のようなケースに行われることの多い代償分割、あくまで財産取得者に資力があることが前提となります。できる限り平等な相続を行うために活用される代償分割は、財産を相続した相続人に代償金を支払う能力があるからこそ成立します。
代償金の分割が認められるケースや、現金以外の代償財産でやり取りされるケースもありますが、基本的には相続人の十分な資力を前提とした遺産分割方法です。
代償分割で注意すべきこと
代償分割の価格で揉めないように協議
代償分割でまず注意したいのは、代償金の価格決定で揉める可能性があることです。既述のような計算方法で課税価格を算出しますが、「相続する不動産の評価額がどのくらいか」ということは、相続人間で意見が分かれやすいです。
というのも、代償金交付者としては支払う代償金を抑えるために評価額を低く見積もり、代償金受給者としては受け取る金額を上げるために評価額を高く見積もる傾向にあるからです。
このような点も踏まえて協議を行い、代償金支払いの旨や金額を「遺産分割協議書」に記入をすることになります。そのため、代償分割を行う上では遺産分割協議書の書き方も知っておく必要があります。
遺産分割協議書の記入が必要
相続人全員で遺産分割協議をして協議が成立したら、遺産分割協議書を作成します。これは遺産協議の内容をまとめた書類で、代償分割以外の方法で相続を行う場合にも必要です。
代償分割を行った場合には、代償金を支払う旨を明記しなくてはなりません。この記載がない場合には「相続ではなく贈与」と見なされて、贈与税が課されることもあります。
代償分割を行った場合の遺産分割協議書の記載例は、以下の通りです。
お伝えした通り、赤枠の代償金支払いに関する記述がない場合には、相続税ではなく贈与税が課される可能性もあります。協議書に定まった形式はありませんが、内容に関わらず相続人全員の実印は必須となります。
代償金用の現金がない場合は分割も可
不動産を相続し、代償金を交付する必要があるものの、すぐに現金を用意できないこともあります。このように相続人に資力がない場合というのは、代償分割に適しているとは言えません。しかし、相続人間で合意があれば、分割での支払いも可能となります。ただし、未払いが発生した場合には、血縁関係のある相続人間でトラブルになるリスクもあります。
また、現金以外を代償財産として渡すことも可能です。この場合には、譲渡所得税が課されることに注意しましょう。他には、生命保険金などの「みなし相続財産」を代償金に充てる、という選択肢もあります。みなし相続財産は遺産分割の対象外のため、指定された受取り人が分割協議を経ずに全額受け取ることが可能です。死亡退職金なども、このみなし相続財産に含まれます。
代償分割に贈与税が課されることも
代償分割を行った場合には、代償金の交付者・受給者の双方に相続税が課されます。しかし、予期せぬ形で贈与税が課されるケースもあるので注意が必要です。代償分割を行ったにも関わらず贈与税が課されるケースとしては、下記の2つの例が挙げられます。
- 遺産分割協議書に「代償分割をし代償金を支払う旨」を記載しなかった場合
- 支払われた代償金が多すぎた場合
1に関しては「遺産分割協議書の記入が必要」でお伝えした通りです。2のケースは、本来支払われるべき代償金が1,000万円だったにも関わらず、1,500万円が支払われた場合などです。この場合には、超過分の500万円に贈与税が課されてしまいます。(課税対象者は受け取った者)
代償分割のまとめ
代償分割は、不動産など均等に相続しづらい財産がある場合に、相続人間の各相続分を公平に保てる遺産相続方法です。遺産を相続した相続人に代償金を支払う資力があることが前提となりますが、不動産を現物のまま残せる上に共有名義に伴うトラブルも避けられるなど、利点の多い分割方法です。
不動産の評価額の決定方法や金額で揉める可能性なども考慮した上で、代償分割が最適な遺産分割方法かを判断しましょう。遺産総額が基礎控除を超える場合、相続税申告が必要になります。
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監修者情報
徳永 和喜(公認会計士)
高校卒業して就職後、一念発起して公認会計士試験合格。
2018年から株式会社better創業メンバー取締役としてbetter相続Webアプリケーション開発に従事。公認会計士/税理士とエンジニアを兼務しながら、相続税申告の案件にも携わる。
2022年10月、経営統合により辻・本郷ITコンサルティング株式会社の執行役員就任。better相続事業部長として、自分で相続税申告や相続登記を行う方へより良いサービスの提供を目指している。