相続税申告が必要かどうか、やり方、費用などについて解説
相続した財産総額が基礎控除を超えた場合、相続税申告が必要です。相続税や相続税申告に馴染みがなく、どのように行えばよいのか分からない方が多くいらっしゃいます。
今回は相続税申告が必要かどうか、どのように行うのか、費用はどの程度なのかなど、相続税申告について解説します。相続税申告についての疑問を解消していただけますと幸いです。
目次
相続税申告とは
相続税申告とは、基礎控除額を超えた財産を相続した方が税務署へ書類を提出する手続きのことです。相続税は納税者が税務署へ申告し、税額を確定する申告納税制度であるため、相続税申告を行う必要があります。
相続人が共同で申告書を作成し連署して税務署へ提出することが一般的ですが、相続人ごとに相続税申告書の提出を行うことも可能です。
相続税申告は相続が発生した方全員が行うのではなく、対象となる方のみが行う手続きです。2021年度の相続税申告の対象者は9.3%で、約10人に1人が相続税申告の対象者となっています。
相続人ごとに行うケースとは?
相続税申告を相続人ごとに行うケースとしては、相続人同士の仲が悪い場合、争いが発生した場合などです。協力して手続きを行うことができない場合、各自で相続税申告を行うことになります。
しかし、各自で相続税申告を行うと手間やコストが増える、申告した財産の評価額が相続人同士で異なると税務調査に入られる可能性が高くなるなどのデメリットがあります。
相続税申告の期限
相続税申告は、故人が死亡したことを知った日(通常の場合は、死亡の日)の翌日から10か月以内が期限です。例えば、2月10日に亡くなった場合、12月10日が相続税申告の期限となります。
相続税申告の期限日が土日祝日だった場合、税務署は休みのため、相続税申告書の提出などができません。そのため、土日祝日の次の日が相続税申告の期限となります。例えば、12月10日が土曜日で、12月12日の月曜日が祝日の場合、相続税申告の期限は12月13日です。
なお、12月29日~1月3日は税務署が年末年始休みになるので、相続税申告の期限が休みと被っている場合は、1月4日が期限となります。
特殊な事情があれば最大2ヶ月延長できる
相続税申告期間中の胎児が生まれた場合(みなし相続人として含んでいた)や遺贈の放棄、死亡退職金の確定、相続人の認知など、相続人や相続財産が変わる場合に期限の延長ができます。
相続人の変更などが発生した時が、相続税申告の期限の1か月以内だった場合、延長の対象となります。
延長する場合は税務署へ延長の申請を行う必要があります。
相続税申告をしないとどうなるのか
相続税申告を期限内に行わなかった場合、税務調査の事前通知が来て、無申告加算税が課されます。
無申告加算額は納付すべき税額の内、50万円以下と50万円を超える部分に分けて課される税額が計算されます。
また、事前通知が来てから税務調査を受けるまでの期間に相続税申告を終わらせるかどうかでも課される金額が異なります。
納付すべき税額の内 | 税務調査の事前通知前に、自主的に申告した | 税務調査の通知が来てから、税務調査を受ける前に申告した | 税務調査を受けてから申告した |
50万円以下の部分 | 5% | 10% | 15% |
50万円を超える部分 | 5% | 15% | 20% |
なお、5年以内に相続税で無申告加算税または重加算税を課されたことがあり、その際に税務調査を受けてから申告していたら、+10%が加算されます。
相続税申告は行ったが納税を忘れた場合
相続税申告をしたが、相続税を期限までに納め忘れた場合、延滞税が課されます。また、期限後に相続税申告や修正申告をした場合、税務調査によって更正処分や決定処分があった場合にも延滞税が課されます。
延滞税の計算方法は令和5年1月1日~12月31日の期間だと、
- 納期限の翌日から2ヶ月を経過するまでは年2.4%(原則は7.3%ですが、銀行金利を加味して2.4%になっています)
- 納期限の翌日から2ヶ月を経過した場合は年8.7%(原則は14.6%)
となっています。
相続税申告が必要か確認する方法
相続税申告は相続が発生した方全員が行う手続きではないため、自分が対象か確認しておくことをおすすめします。
どのように相続税申告の要否を確認すればよいのか解説します。
相続税申告が必要か確認する前に行うこと
確認を行う際、相続人の数と財産額を把握しておく必要がありますので、それぞれを調べる方法について解説します。
相続人の数を把握する方法
相続人の数によって、相続税の基礎控除額が異なります。そのため、相続人の数を把握する必要があります。
相続人の数を把握するには、故人が出生してから死亡するまでの連続した戸籍謄本が必要です。転籍や婚姻などをしている場合、転籍・婚姻前の本籍地所在地の市区町村で、除籍謄本や改製原戸籍を取得する必要があります。
資料を集めたら相続関係を把握します。配偶者は常に相続人となり、子がいなければ親、親がいなければ兄弟姉妹が相続人となります。
財産総額を把握する
相続税申告を行う際、相続する財産をすべて把握する必要があります。抜け漏れがあると税務調査の対象となるため、故人の自宅や書類などから財産を把握しましょう。
また、債務なども相続税申告の有無に関係します。以下の表に相続財産をまとめていますので、把握する際にご利用いただけますと幸いです。
預金 | 名義預金 | 株式など | 保険 |
現金 | 不動産 | 貸付金 | 死亡退職金 |
年金 | 未収金 | 家財 | 葬式費用 |
借入金 | 未払金 | 生前贈与 | その他 |
遺産総額が基礎控除額を超えていれば相続税申告が必要
相続税の基礎控除額は【3,000万円+600万円×相続人の数】で算出され、遺産総額が基礎控除額を超えている場合、相続税申告を行う必要があります。
例えば、両親と子2人の家族で、父親が亡くなった場合、3,000万円+600万円×3=4,800万円が基礎控除となります。残った財産-残った債務が4,800万円を超えていない場合、相続税申告は不要です。
なお、相続人に相続放棄を行った方がいる場合でも相続人の数に入れて基礎控除を算出します。
相続税申告が必要か判断されたい方は、こちらで簡単にできますので、ご利用いただけますと幸いです。
相続税がかからなくても相続税申告は必要になる
遺産総額が基礎控除額を超えた場合でも、控除を利用することによって相続税が0円になることがあります。しかし、基礎控除額は超えているため、相続税申告が必要となります。
例えば、配偶者の軽減税率という制度を利用すると、配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円、もしくは法定相続分のいずれか多い方までは相続税がかかりません。
相続時精算課税で贈与税の還付を受けるなら相続税申告が必要
生前、2,500万円まで贈与税がかからずに財産を渡すことができ、死亡後、贈与時の価額を相続財産に加算する相続時精算課税制度。
2,500万円を超える部分は20%の贈与税が発生しますが、相続税が贈与税の金額を下回る場合、その差額を還付してもらうことができます。還付を受ける場合は相続税申告が必要です。基礎控除以下で還付もない場合は、相続税申告の必要はありません。
還付を受けるための申告書提出は、相続開始日の翌日から5年以内が期限となっています。
相続税申告を行う流れ
相続税申告が必要かについて解説してきました。相続税申告が必要になった場合、どのような流れで行うのかを解説します。
相続税申告を自分で行うか、税理士に依頼するか決める
まずは相続税申告を自分で行うか税理士に依頼するか決めます。
税理士に依頼すると相続税申告書の作成など様々な手続きを行ってくれるため、手間や時間を減らすことができます。その分費用が数十万~数百万円程度かかります。必要書類の収集や財産調査なども依頼できますが、追加料金になることもあります。
自分で相続税申告を行うと税理士に依頼する費用を抑えることができます。しかし、自分で相続税申告書の作成などを行う必要があります。
相続財産が預貯金と自宅のみの不動産の場合は自分で相続税申告を簡単に行うことができます。非上場株式や多くの不動産を所有しているなどの場合は税理士に依頼することをおすすめします。
遺言書の確認、遺産分割協議書の作成
相続税申告では、どのように遺産を分割したのかを示すために、遺言書や遺産分割協議書を相続税申告の際に提出することが一般的です。
自筆証書遺言がある場合は家庭裁判所での検認を行います。法務局に保管されている場合や公正証書遺言の場合は検認不要です。
遺言書がない場合は、誰がどの財産を相続するのかを協議し、その内容をもとに遺産分割協議書を作成します。控除や次の相続を踏まえて遺産分割協議書を作成すると、相続税を抑えられる形で相続することができます。
相続税申告に必要な書類を集める
相続税申告では、相続した財産と申告した財産が一致しているか証明するために添付書類を提出します。また、相続人や控除などに関連した書類も必要となります。
これらの書類は自治体や行政機関、金融機関など様々な場所で取得します。相続の手続きでは、戸籍謄本や印鑑証明書等の書類を何度も提出する場面があります。その度に収集するのは大変ですので、あらかじめ何の手続きに、どのような資料が何部ほど必要になるか、いつ手続きを実施するのか等を勘案した上で、計画的に手続きを進めることをおすすめいたします。
相続税申告書を作成する
財産調査が完了し、必要書類を取得した後、相続税申告書を作成します。相続税申告書は税務署や国税庁のホームページから入手することができます。また、e-taxでも相続税申告書の作成が可能です。
相続税申告書は第1表から第15表まであり、入力する場所や数値、計算方法が複雑なため、知識や労力が必要となります。
簡単に相続税申告書を作成したい方には『better相続申告』のご利用をおすすめします。質問に回答すると相続税申告書を作成することができます。
相続税申告書を税務署に提出する
相続税申告書を作成した後、故人が亡くなった際の住所地を管轄する税務署へ必要書類とともに提出します。郵送やe-taxでの提出も可能です。なお、申告書や印鑑証明書以外の必要書類は原本ではなく、コピーを提出します。
税務署で受領印を押してもらい、相続税申告書の提出は完了です。申告漏れや税務調査などがある場合、電話や書面で通知が来ます。申告から2年程度は税務調査の可能性があります。
相続税を納付する
相続税申告が完了した後、算出された相続税額を納付します。これも相続税申告書の提出と同じく10か月以内に行う必要があります。
相続税の納付書は税務署や金融機関で受け取ることができます。各納税者ごとに納付するため、相続人が3人の場合、納付書は3枚必要となります。
現金一括納付が原則ですが、申告期限内に支払うことが出来なければ『延納』という制度を使って、分割での支払いにすることができます。延納申請書を税務署へ提出し、申請を通す必要があり、利子税が発生するため、最初に納める税額よりも多く支払うことになります。
相続税申告にかかる費用
相続税申告にかかる費用は、自分で行うと数千~数万円、税理士に依頼すると数十万~数百万円となります。
完全に自分で申告する場合、書類を取得するための実費程度になるため、数千~数万円程度となります。相続税申告をサポートしてくれるシステムを使っても、10万円以下の費用で収まることが多いです。
税理士に相続税申告を依頼すると、遺産の0.5~1%ほどの費用が発生します。そのため、遺産が1億円だと50~100万円ほどかかり、自分で行う場合の5~10倍以上の費用となります。その分、相続税申告の作業などを代行してくれるため、手間を省くことができます。
相続税申告を行う上で重要なポイント
相続税申告を行う上で重要となるポイントが以下の2点です。
- 相続財産を適切に評価する
- 相続税の控除を活用する
相続財産を適切に評価・申告する
相続する財産は抜け漏れがなく、適切な評価額で申告することが重要です。抜け漏れがあったり評価額を間違えたりすると、税務調査が行われ、修正申告や延滞税などが発生してしまいます。
また、相続税を逃れようとして財産を隠す、虚偽の申告を行うなどをした場合、重加算税を支払うこととなり、本来支払うべきだった相続税額よりも多くの税金を納めなくてはいけません。
名義預金や生前贈与の有無など、財産調査はしっかりと行い、適切な評価額で申告することをおすすめします。
相続税の控除を活用する
相続税で使える控除は様々あり、有効活用することで納める税金を減らすことができます。
① | 暦年課税分の贈与税額控除 |
② | 配偶者の税額控除 |
③ | 未成年者控除 |
④ | 障害者控除 |
⑤ | 相次相続控除 |
⑥ | 外国税額控除 |
⑦ | 相続時精算課税分の贈与税額控除 |
この他にも、小規模宅地等の特例などの控除もあります。併用することもできるため、当てはまる控除は使用して適切な相続税額にすることをおすすめします。
自分で相続税申告をする・税理士に依頼するメリット・デメリット
相続税申告は自分で行うか、税理士に依頼するかの2つの方法があります。
自分で相続税申告をする、税理士に依頼する、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
自分で相続税申告をするメリット・デメリット
自分で相続税申告をするメリットは、税理士に依頼する費用を抑えられることです。必要書類を取得するための費用で済むことが多く、税理士に依頼するよりも数十万~数百万円ほど抑えられます。相続税申告をサポートするシステムを使用しても費用が10万円以下に収まることが多いです。
デメリットは申告書を作成する手間がかかることです。土地の評価や相続税申告書の作成、それに関する情報収集などを行う必要があります。専門用語が多く、評価や作成が難しいため、情報収集や作成にかかる時間の確保が必要です。
また、非上場株式など専門家でないと評価が難しい財産が含まれる場合、自分で行うと税務調査の可能性が高くなります。
税理士に相続税申告を依頼するメリット・デメリット
税理士に相続税申告を依頼するメリットは手間や時間を抑えられることです。書類の取得以外の作業はほぼすべて代行するため、知識や時間がない方でも安心して相続税申告を完了できます。評価の難しい不動産が複数ある、非上場株式が含まれるなど、相続税申告が難しい場合でも正しい評価額で申告書を作成してくれます。
デメリットは費用が高額になることです。数十万~数百万円の費用が発生するため、遺産をなるべく多く残したい方には向いていません。
また、安いと思って依頼したがオプションが必要で高額になった、節税しようと税理士に依頼したが報酬が高く自分で行った方が安く済んだなども例もあるため、税理士を選ぶ際は注意が必要です。
相続税申告を自分で行うか税理士に依頼するか判断する方法
まずは税理士に依頼する費用を抑えたいかどうかから考えることをおすすめします。費用面は考慮せず、面倒な手続きはすべて依頼したいという方は税理士に依頼した方が良いです。
次は相続する財産について考えます。非上場株式が含まれる場合やいびつな土地がいくつもある場合など、評価が難しい財産を保有している場合は税理士に依頼した方が良いです。
書類の収集や財産の調査は税理士に依頼する場合も自分で行う場合も手間は大きく変わりません。税理士に依頼する場合、財産調査や書類の取得を代行してくれることもありますが、追加料金となることが多いです。書類の取得などを行う時間がない方は税理士へ依頼を、財産がシンプルで書類の取得なども行える場合は自分で申告することをおすすめします。
自分で相続税申告を行う人の割合
相続税申告を自分で行う人の割合は令和3年度で13.9%となっています(令和3事務年度国税庁実績評価書より算出)。約7人に1人は自分で相続税申告を行っており、約7人に6人は税理士が関与しています。
割合を見ると相続税申告を自分で行うのは難しいと思われる方もいらっしゃると思いますが、本当は自分で相続税申告を行うことができたのに税理士に依頼してしまった方も多いと考えられます。
評価の難しい財産がなく、作業する時間を確保できる方は自分で相続税申告を進めてみて、途中でできないと判断してから税理士に依頼することをおすすめします。はじめから税理士に依頼してしまうと費用を抑える機会がなくなってしまい、本当は手元に残せた数十万円を損してしまう可能性もあります。
相続税申告で税務調査に入られる可能性
相続税申告において、相続財産の申告漏れや不正があった場合、税務調査に入られる可能性があります。
令和3年度の相続税申告数は134,275件でした。そのうち、実地調査に入ったのは6,317件、電話などの連絡は14,730件で、相続税申告を行った方の1.5割ほどが税務調査を受けています。
簡易な接触で問題があったのは24.6%で、電話などでの確認なら追徴課税を受ける可能性はそこまで高くありません。反対に実地調査で問題があったのは87.6%で、実地調査が行われると追徴課税を受ける可能性が高いです。
申告漏れがなければ税務調査は受けにくい
遺産が数億円あるといったケースでない限り、漏れなく相続税申告を行えば税務調査に入られる可能性はそこまで高くありません。税理士に依頼しても、自分で相続税申告を行って間違いなく相続税申告を行えば税務調査に入られる可能性は同じです。
もし、相続税申告書を提出してから申告漏れを見つけた場合、修正申告が必要となります。期限を過ぎている場合は早めに提出し、延滞税が増えないようにすることをおすすめします。
税務調査があれば修正申告で対応
もし、税務調査が発生した場合、修正申告を行い、正しい税額を納付します。申告期限後なら延滞税や加算税が課される可能性が高いため、早めに修正申告を行うことをおすすめします。
反対に評価や計算の間違いで相続税を払いすぎた場合は更正の請求を行い、過払い分を還付することができます。請求は相続税申告の期限から5年以内に行う必要があります。認められれば『相続税の更正通知書』が届き、還付金が振り込まれます。
自分で簡単に相続税申告をするならbetter相続申告がおすすめ
自分で相続税申告をしたい方へ『better相続申告』をおすすめします。
専門家のノウハウをシステムに落とし込んでいるため、はじめての方でも簡単に自分で相続税申告ができます。詳しい解説や必要書類のリスト化、小規模宅地等の特例などの各種控除、土地評価明細書の作成も可能です。
途中で税理士切替も可能なため、安心してご利用いただくことができます。
監修者情報
徳永 和喜(公認会計士)
高校卒業して就職後、一念発起して公認会計士試験合格。
2018年から株式会社better創業メンバー取締役としてbetter相続Webアプリケーション開発に従事。公認会計士/税理士とエンジニアを兼務しながら、相続税申告の案件にも携わる。
2022年10月、経営統合により辻・本郷ITコンサルティング株式会社の執行役員就任。better相続事業部長として、自分で相続税申告や相続登記を行う方へより良いサービスの提供を目指している。